日本遺伝看護学会 理事長挨拶

 2025年度より理事長を拝命いたしました柊中 智恵子(くきなか ちえこ)と申します。これまでの歴代理事長が築いてこられた遺伝看護学の道を、さらに明るく灯し続けられるよう尽力したいと思います。
 日本遺伝看護学会は、1999年に発足した「日本遺伝看護研究会」を経て、2005年「日本遺伝看護学会」に名称を変更し、現在に至っております。臨床・教育・研究を通して、遺伝に関わる看護職の役割を明確にし、遺伝看護サービスの質の向上を図ることを目指しています。そして、すべての人々が暮らしやすい社会をめざして、市民の皆様とともに学びあい、考え、歩む活動を大切にしています。
 ヒトゲノムの解明と科学技術の革新は目覚ましい進歩を遂げており、遺伝・ゲノム情報が人々の健康に及ぼす影響はより明確になり、診断・治療はもとより予防に対する戦略が練られるようになってきました。保険診療で可能な遺伝学的検査は飛躍的に増え、多遺伝子パネル検査も普及しつつあり、拡大新生児マススクリーニングも広がっています。遺伝子を活用した治療法が開発されたことで、早期診断と早期治療の重要性は増すばかりです。
 当学会の発足当初は、「遺伝看護とは何か」という問いから始まり、海外から講師を招き、事例検討会を中心に活動を展開してきました。諸先輩方の尽力により、2017年には遺伝看護専門看護師が誕生し、現在25名が全国で活躍しています。日本における遺伝看護学は四半世紀の歴史をもち、看護基礎教育の看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)に実践レベルで遺伝看護学の教育内容が新たに加わったことは、今後の遺伝看護学の発展に向けて大きな一歩だったと考えています。
 2023年6月には、「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」も制定され、今後は遺伝情報による不当な差別を禁止することや一般市民への情報提供の均一化など、さらに具体的な施策の検討が予想されます。我々看護職は、周産期、小児、がん、難病、生活習慣病等の様々な領域で活動していますが、顕在的・潜在的遺伝的課題を持つ当事者(患者や家族)に対して、保健医療福祉の現場で看護職が果たす役割をこれまで以上に明確にしていくことが求められると考えています。そのためには、これまでの学会活動を踏襲しながら、さらに以下の点について充実・加速した活動を行っていきたいと考えます。
 1.看護基礎教育および卒後教育で遺伝看護学をさらに周知していくこと
 2.遺伝看護の必要性について、看護関連団体へ周知し共有していくこと
 3.当事者団体や支援団体、遺伝関連他学会、他職能団体(医療だけでなく保健福祉関連の団体)と益々の連携を図ること
 会員の皆様や遺伝医療・看護に携わっておられる皆様のご理解とご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

2025年5月吉日
日本遺伝看護学会
理事長 柊中智恵子